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蜂刺されによるアレルギーとは
蜂に刺されたとき、かゆみや発赤(ほっせき)のような皮膚炎、または嘔吐や寒気などの症状を起こすことがあります。蜂毒の中にはアレルギー反応を起こす成分(アレルゲン)やヒスタミンが含まれているため、場合によっては重症のアナフィラキシーに至る危険性があります。
厚生労働省統計では、日本では蜂刺されによるアナフィラキシーショックで年間20人ほどが亡くなっており、その多くは40歳以上の男性でした1)。蜂の被害は夏から秋にかけて多く、蜂刺されによる患者数は8月がピークとなります。
薬物や食品を上回り、蜂毒アレルギーが最多の死亡原因です。
アナフィラキシーの詳細はこちらをご参照ください。
原因となるハチ
人を刺す習性があるのは、スズメバチ、アシナガバチ、ミツバチの3種類です。営林署や林業、農業、ゴルフ場などにおいてはスズメバチやアシナガバチ、養蜂業やイチゴ農家ではミツバチに刺されるケースが多いといわれています。福田健 編. 総合アレルギー学 改訂2版.
ハチ刺傷によるアナフィラキシーはアシナガバチ、スズメバチ、ミツバチの順に多いと報告されています。
図:VIATRIS HPより引用
農業・林業・電気設備業者の方は要注意
蜂毒アレルギーの患者さんの50%以上は蜂刺されのリスクが高い職業の方となります。
林野事業関係者、電気設備業者、ゴルフ場、養蜂業、農業などの職種に多く、蜂との接触に対して注意喚起が呼びかけられています。また、職場に限らず、スポーツやレジャーなどで山間部に出かける場合でも、蜂毒によるアナフィラキシーのリスクは高くなります。
林業・木材製造業従事者の40%、電気工事従事者の30%がハチ毒特異的IgE抗体陽性であると報告されています (HayashiらAllergol Int 2014)。つまり蜂刺傷を経験することの多い職種は、ハチアレルギー体質者が多く存在し、蜂刺傷により全身アナフィラキシー症状を起こす危険性が高いと考えられます。
特に短期間に2回刺傷されるとアナフィラキシーを生じやすいとされています。(ただし後述するように初回の刺傷でもアナフィラキシーを生じることがあるため注意が必要です。)
山間部の工事現場や森林で就業する方はあらかじめ「蜂アレルギー検査」をしておくとよいでしょう。
症状があらわれてから心停止まで約15分
蜂毒は反応時間が早く、蜂に刺されてからその多くは約15分以内には症状が出てきます。症状が早くあらわれるほど重症になることが多く、場合によってはアナフィラキシーショックを起こします。さらに、アナフィラキシーの症状が出てから心停止までの時間は15分という報告があり、速やかな治療が必要です。
医療機関から離れた山間部などで蜂刺されにあった場合は、救急車の到着までに時間がかかることが多く、アナフィラキシーショックにより命を落とすリスクがさらに高まるため、エピペンを備えておく対策は非常に重要です。
図:VIATRIS HPより
局所的な腫れから、重い全身症状まで
蜂に刺された場合に、蜂毒アレルギーがない人は、刺された箇所に軽い痛みやかゆみ、腫れなどが起こり(局所症状)、数日程度で消えていきます。
蜂毒アレルギーのある人は、約10~20%の人にアナフィラキシー(じんましんなどの皮膚症状、吐き気・嘔吐、全身のむくみ、呼吸困難などの複数臓器に及ぶ強いアレルギー反応)を生じます。そのうち、数%は意識障害や急な血圧低下によるアナフィラキシーショックを起こし、最悪のケースでは心停止に至り、死亡することもあります。
アナフィラキシーは一度おさまっても再びあらわれることもあります。「おさまったから大丈夫」と安心はせず、すぐに病院で診断を受けることが大切です。
初めての蜂刺されでも死に至るケースがあります
アレルギー症状の多くは、体内に蜂毒に対する抗体ができた後、2回目以降に蜂毒が入ったとき、もともと身体の中に存在する主にヒスタミンという物質の作用によって、全身症状が引き起こされます。よって短期間に2回刺傷されるとアナフィラキシーを生じやすいとされています。ただし蜂毒にもこのヒスタミンが少量含まれていることから、多量の蜂毒が同時に体内に入った場合、初めての蜂刺されでもアレルギー様の症状を起こすこともあります。
蜂刺されで死に至るのは、複数回刺された場合よりも、初めて刺されたケースの方が多いという報告もありますので、1回目なら大丈夫という考えは危険です。
なお蜂毒には多数のアレルゲン(アレルギーの原因となるタンパク質)が含まれており、中にはハチの種類を超えて共通のアレルゲンもあります。そのため、アシナガバチに刺されてアレルギーを獲得した患者が、スズメバチに刺されてアレルギー症状を発症することもありますので注意が必要です。
蜂対策として注意すること
「近づかない、触らない」が基本
毒針を持つ蜂でも、こちらから刺激しなければ、刺されることはまずありません。蜂が相手を襲うのは、巣が攻撃されて危険を感じたとき。蜂に刺されないためには、「蜂に近づかない」、「巣に近づかない」、「蜂や巣に触れない」を守りましょう。
生活指導
一般的な蜂刺傷をさける方法について,以下の様に提唱されています。
- 蜂の巣に近づかない.
- 家屋内に営巣させないために穴をふさぐ.
- 肌に密着する衣類を着て,服の下に蜂が入らないようにする.
- 白っぽい服を着る.
- 花模様のある服や黒い服を避ける.
- 芳香のある化粧品を避ける.
- 戸外で甘味物を食べない.
- 自動車の窓を開けっ放しにしない.
- 洗濯物や布団を取り込むとき,蜂を紛れ込ませない.
- 不必要な時に,藪の中に入ったりしない.
- 見張り役の蜂を見かければ,巣が近いことを知る.
- 蜂を追い払う(殺虫剤やスプレーなど含む)行動は興奮を招くので決して行ってはならない.
- 蜂を見かけた場合,顔を下に向き加減に静止し,蜂が去ってから静かに退避する.
平田 博国 石井 芳 獨協医科大学 内科学(呼吸器・アレルギー)
蜂毒アレルギーの臨床 アレルギー免疫治療の最新の進歩
Dokkyo Journal of Medical Sciences
41(3):295〜306,2014
蜂に攻撃されたら
蜂が向かってきた時に、手でふりはらったり大声をあげたりすると、かえって蜂を刺激します。目を閉じて、顔を下向き加減にし、身を低くしてじっとしていましょう。興奮した蜂に刺激されて、他の蜂が集団で襲ってくる場合もあります。走らないよう、速やかに、その場から離れてください。
蜂に刺されたら
毒針が残存していたら抜き取り、冷水で冷却します。
何らかの全身症状が出現したら、ショック体位(仰向けになり、下肢を挙上します)をとります。早急に近隣の医療機関を受診するようにしましょう。その際、@エピペン(アドレナリン自己注射キット)を携帯している場合には、直ちに注射を行います。
アナフィラキシーに備えましょう
過去に蜂に刺されたり、アナフィラキシーの経験がある場合は、@エピペン(アドレナリンを自分で注射する自己注射薬)を常に携帯しましょう。
エピペンの詳細はこちら。
蜂毒アレルギー外来について
蜂毒アレルギー検査
血液検査で蜂毒アレルギーの有無を知ることができます。
【保険診療の場合】アナフィラキシーの既往のある方や過去に蜂に刺された既往がある方は、健康保険で検査が可能です。
【自費診療の場合】「山林で仕事をするのでハチ毒アレルギーがあるかどうか調べたい」という予防的な確認を行う場合は、健康保険が使えませんので自費で行います。
当院での自費料金 | 内訳 |
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9,000円(税込) |
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- ご本人確認のため、保険証等をご提示ください。
- 料金を事業所負担で後払いご希望の場合は、事業所担当者様と打ち合わせをさせていただきますので、あらかじめ連絡お願いします。
エピペン(アドレナリンを自分で注射する自己注射薬)処方
【保険診療の場合】アナフィラキシーの既往がある方やアナフィラキシーの危険性が高い方は、健康保険で処方が可能です。具体的には、上述の蜂毒アレルギー抗体陽性の方は保険適応となります。
【自費診療の場合】万一のときのためにエピペンを持っていたいという場合は、自費での処方となります。
当院での自費料金 | 内訳 |
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20,000円(税込) |
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- ご本人確認のため、保険証等をご提示ください。
- 料金を事業所負担で後払いご希望の場合は、事業所担当者様と打ち合わせをさせていただきますので、あらかじめ連絡お願いします。
外来の流れ
外来を予約していただく際に、蜂毒アレルギーについての診察希望であることをお伝えください。(電話、LINEのほか、アプリで予約する際にその旨を記載いただけると助かります。
ご来院後に詳細な問診をさせていただき、検査ないしエピペン処方を自費とするか保険適応とするかを判断します。
*想定されるパターン(①〜③)
①アナフィラキシーの既往のある方:検査・エピペン処方とも保険適応
②蜂に刺された既往のある方:検査は保険適応、検査結果が陽性ならエピペン処方は保険適応、陰性ならエピペン処方は自費
③予防の場合:検査・エピペンとも自費
① or ③の場合は1度のご来院のみで対応可能です。(検査結果は郵送ないしLINEでのお伝えが可能です。)ただし、②の場合は2度のご来院をしていただくことになりますので、ご了承いただきますようによろしくお願い致します。