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脂質異常症とは
脂質異常症とは血液中の「悪玉」と呼ばれるLDLコレステロールや中性脂肪(トリグリセライド)が増えたり、「善玉」のHDLコレステロールが減ったりした状態のことをいいます。脂質異常症の発症には、過食、運動不足、肥満、喫煙、過度な飲酒、ストレスなどが関係しているといわれています。
脂質異常症は高血圧など他の生活習慣病と同様に自覚症状がほとんどなく、放置している人も多くいるのが現状で、患者数は予備軍を含めると2000万人以上ともいわれています。
脂質異常症と動脈硬化
「悪玉」LDLコレステロールは血管壁に侵入しやすいため、徐々に血管壁に堆積してプラークと呼ばれるコブ(画像の黄色い部分)が形成されます。
その結果、血管内部が次第に狭くなり、血管自体も硬く、もろくなります。このような血管の変化を動脈硬化と呼びます。
動脈硬化が進むと、最終的にはプラークが破綻し、血栓が生じ血管が閉塞します。心臓の血管が詰まれば心筋梗塞、脳の血管が詰まれば脳梗塞、を引き起こします。
動脈硬化は年齢と共に進行しますが、様々な危険因子によって進行が加速します。そのため、それらの危険因子を取り除いていくことが重要です。高血圧が動脈硬化の大きな危険因子の一つであることはよく知られていますが、同様に脂質異常症も重大な動脈硬化の危険因子です。
そのため脂質異常症は、自覚症状が無くても、早期に治療を始めることが大切です。早期に治療を開始することで、危険な病気になるリスクを減らすことができます。
脂質異常症の原因
不健康な生活習慣
ストレス過多や睡眠・運動不足による生活習慣の乱れや、暴飲暴食による過食や栄養バランスの偏りといった食生活の乱れが、脂質異常症の原因とされています。
特に食生活の乱れが主な原因として考えられており、いわゆる「食生活の欧米化」により、高コレステロール・高カロリーの食事が増えたことで、脂質異常症も増加傾向にあります。
遺伝的な要因(家族性高コレステロール血症)
脂質異常症は必ずしも肥満や生活習慣が乱れている方に起こるとは限りません。遺伝性の病気で家族性高コレステロール血症というご病気があります。若い時期からLDLコレステロールが血液中で高くなり、若いときから動脈硬化が進行します。特に心臓の血管(冠動脈)に影響が大きく、心筋梗塞や狭心症を引き起こし、男性では20歳代から、女性では30歳代から心筋梗塞が起こることもあります。
診断には、LDLコレステロールの測定をはじめ、家系内調査、レントゲンでのアキレス腱の厚さのチェックを行います。通常の脂質異常症よりもリスクが高いため、専門的な診断・治療が必要です。当院は家族性高コレステロール血症に精通していますので、お気軽にご相談ください。
病気・薬の影響
他の病気の影響で脂質異常症を生じることがあります。またステロイドや経口避妊薬などのお薬がコレステロール値に影響し、脂質異常症を引き起こすことがあります。
脂質異常症の判断
脂質異常症は自覚症状が乏しいため、他の病気や健康診断の検査の際に脂質異常症であることを指摘されることが大半です。脂質異常症であるか診断するためには血液検査が必要です。一般的には下記の基準で診断します。
- LDLコレステロール(悪玉コレステロール): 140mg/dL以上
HDLコレステロール(善玉コレステロール): 40mg/dL未満
トリグリセリド: 150mg/dL以上(空腹時採血)
脂質異常症の治療
脂質異常症の治療は、まず食事療法と運動療法をメインとした生活習慣の改善を行い、それでも数値が改善しない場合は必要に応じてお薬を用いた治療を行います。
脂質異常症の治療目標は、中性脂肪・LDLコレステロール・HDLコレステロールの数値を目標値まで改善させ、それを維持することによって「動脈硬化を進行させないこと」です。健康診断で中性脂肪やコレステロール値の異常を指摘された場合はお早めにご受診ください。早期の治療が非常に大切になります。
生活習慣の改善
脂質異常症は、食事療法と運動療法を同時に進めていくことが大切になります。
また、アルコール摂取量の制限、禁煙なども行えるとより効果的といえます。
(1)食事療法
基本的には、1日3食規則正しくご飯を食べて、間食や夜の食事を減らし、1回の食事の量を腹8分目にすることなどが重要です。中性脂肪やLDLコレステロール値を上げるとされる“飽和脂肪酸”を含む食品を減らし、逆に体内でこれらを調節してくれる役割を持つ“不飽和脂肪酸”を含む食品を増やすことを意識しましょう。
飽和脂肪酸を含む食品(減らしましょう)
- 乳製品
- 牛肉
- 豚肉
- ベーコン
- ソーセージ
- マーガリン
- 食用油脂
不飽和脂肪酸を含む食品(増やしましょう)
- さば
- さんま
- 本まぐろ
- まいわし
- はまち
- 真鯛
- うなぎ
コレステロールを多く含む食品(減らしましょう)
- 鶏卵(卵黄)
- 魚卵
- えび、かに、イカ
(2)肥満の是正
体重が増えると内臓脂肪が増加し、内臓脂肪から中性脂肪が再合成されます。カロリーの制限や有酸素運動の組み合わせは脂質異常症の治療においても重要と考えられています。
肥満の指標には、体重と身長より計算するBMI(Body Mass Index)がよく使われます。
BMI=体重(kg)÷身長(m)×2乗
で計算され、BMIは22が理想的とされています。BMIが25以上を肥満と定義し、生活習慣病になる確率が2倍を超えます。BMIを意識して体重制限を心がけましょう。
(3)適量のアルコール
アルコールは肝臓内での中性脂肪(トリグリセライド)の合成を増加させます。日々の飲酒量の目安としては、男性の場合、ビールは500cc以下、日本酒は1合、ワインは2杯以下を心がけましょう。一方、女性の場合は、これらの量の約半分を目安にしましょう。
(4)適度な運動
運動療法は、脂質異常症によるコレステロールや中性脂肪の値を改善し、心血管リスクを減らす効果があります。また、運動を続けることで、肥満や糖尿病、高血圧といった生活習慣病のリスクを低減させる効果も期待できます。 運動療法に取り組む際には以下のポイントに注意してください。
- 無理のない範囲で運動強度を選ぶ
- 運動前にウォーミングアップを行う
- できるだけ毎日継続し、習慣化することを目指す
- 運動後のクールダウンを忘れずに行う
- 運動中や運動後に水分補給を行う
運動療法に加えて、リハビリが脂質異常症の改善に役立つこともあります。特に、心筋梗塞や狭心症などの心血管疾患が原因で身体機能が低下している場合、心臓リハビリが有効です。リハビリの過程で、筋力や持久力を向上させることができ、日常生活の質を向上させることが期待できます。 リハビリにおいて重要なのは、医師やリハビリ専門家と密に連携しながら、適切な計画を立てることです。患者の状態やニーズに応じたリハビリプログラムを選択し、個々の目標に向かって取り組んでいくことが大切です。
(5)禁煙
喫煙は,LDLコレステロールを酸化して血管壁に蓄積しやすくします。
また、喫煙は動脈硬化の最も強力な危険因子であり、喫煙を続けていると脂質異常症の治療をがんばっても動脈硬化の進行を十分に食い止めることができない可能性があります。
また喫煙は様々な癌(がん)の原因にもなり、元気に長生きをしていただくうえで禁煙は重要であると考えられます。
薬物療法
生活習慣の改善を一生懸命行っても、なかなか期待した通りに血液検査の値が良くならないこともあります。そういった場合には、必要に応じて脂質を下げるお薬を使うことになります。お薬にはコレステロールを下げる薬、中性脂肪を下げる薬があり、その中でも様々なタイプがありますので、患者様の病態に合わせてお薬を選択する必要があります。
なお動脈硬化リスクの高い方(心筋梗塞や脳梗塞の既往のある方、糖尿病等の合併症のある方、家族性高コレステロール血症状の方など)は最初からお薬を開始する場合があります。
動脈硬化性疾患予防ガイドラインに基づいてリスク評価を行い、患者様のリスクに応じて最適な治療をご提案していきます。